竹との出会いと挑戦のはじまり
浜松市内にある丸大株式会社を営む大石誠一社長を訪れた。同氏は40年ほど前から現場で直接要望をヒアリングし、特注で様々なタイプの丸鋸をユーザーに合わせて提供している、というのも昔は太陽光や風向き、生育環境を見ながら木を観察し、水をかけながら鋼で切断するなど自然に左右される条件を観察してきた。しかし近年の技術の進歩で数値を入れれば一応形にはなる。そこで植物の生育を把握し細かいニーズに応えるようなビジネスを続けてきた。

以前から医療用としての炭の活用についての話を聞き興味はあったものの、同氏が竹に魅了されたきっかけは「なぜ竹はきれいにきれないのだろう」という木のプロフェッショナルであった大石社長がぶつかった壁だった。これがきかっけで竹の植生や成分構造への疑問を持ち始める。
竹加工の方法を検討する中で、従来の大きいものから段々細かくしていくという工程がエネルギーを多く使うことや、竹の構造から「一工程でパウダーを作る」ことを目指し試行錯誤した。刃の角度や方向、切削速度を調整し、世界20カ国から20種類の超硬を取り寄せ磨耗を比較し、ルクセンブルグの超硬を採用した。そうして誕生した竹粉製造機PANDAは逆転の発想だった。
切れ味が長持ちする丸鋸超硬で鰹節のように500μm以下の一定の厚さでスライスをする。薄く(10μm)スライスすると竹の柔細胞の穴を繋いでいる部分がバラバラになる。竹の維管束は針状で腸壁に刺さってしまわないようにするための加工法だ。そのスライスされたものをサイクロンで回収し袋に入れるが、その過程でうずまき状の風の動きで粉になる。この工程では外気に触れる機会が従来の工程より極端に少ないことも特長だ。また粉砕とは異なり切削は常温でスライスができるので成分や微生物が熱変性しないことに着目した。
竹の粉サプリメント誕生
そもそもこの竹の粉は当初人間用のサプリとして開発をしていた。25〜30ミクロン(小麦の2分の1)のサイズまで細かくできれば人間が食べた時に違和感がない。そして100gあたり81gの食物繊維があることもわかった。こうしてまず淡竹という日本古来の品種を使った「竹の粉」という人間用のサプリが誕生する。
畜産用健康増進飼料「孟宗ヨーグルト」
その後畜産草地研究所から動物に与える餌は500ミクロン以下が良いという結果が届き、前途の500ミクロン以下の厚みに繋がる。この孟宗竹を使った畜産用の健康増進飼料「孟宗ヨーグルト」は静岡県西部のモウソウ竹では乾物率42.87%、粗タンパク2.90 、粗脂肪0.80、粗灰分3.22、酸性デタージェント繊維65.84、中性デタージェント繊維91.35など食物繊維が豊富に含まれており、サイレージの発酵品質ではアミノ酸が含まれている(モウソウ竹の飼料成分、畜産草地研究所、静岡中小家畜研究センター、2006)

孟宗ヨーグルトを使用する方法は2つある。
まずは通常の流通に乗せるケースだ。地の利を活かして荒茶の工場にある年に2、3週間しか使用しない真空パックにする装置を活用し、竹粉をアルミパックに入れ減圧嫌気環境にし、竹由来の乳酸菌により「A飼料」として販売する。扱いとしては日本国内では分類上だが粗飼料でも効果としてはサプリメントのようなもの。同氏は1,620円/kgという価格は(高くても25〜30円/kg)餌の業界では破格だと話す。しかし生産者のからのオファーが絶えない。最も管理の厳しい動物園(飼育委員は獣医)は全国各地から継続的に受注がある。
ちなみに500μm以下だと竹の付着乳酸菌が増え、減圧嫌気環境の袋内で乳酸発酵しサイレージ化することがわかった。竹粉は通常保管をしておくと木材より5倍早い3日から1週間で臭気がし、腐敗してしまうことが研究中に分かり研究が中途半端に終わってしまったという苦い過去がある。同氏は「湯気が出るほどの発酵時にでる熱は温室で活用できる」と話す。
もう一つは、PANDAを家畜生産者が購入し近隣の竹を自身で加工し、粉状になったものを発酵なしで家畜にあげる方法だ。竹飼料への1〜5%の置き換えが肉や乳に影響を与え、香りや栄養価が変わる、とされている。「PANDAはコンパクトサイズに設計し、他国にはまねできない竹資源を活用できる日本独自の畜産として新しい仕組みを作りたかった。だから海外からのオファーを断り続けていた。でも何度もオファーが来たのでついに受けたタイで行っている牛への竹飼料の活用と肉や乳への影響についての研究が日本よりも先に出てしまいそう」
静岡西部の放置竹林問題
現在、静岡県西部には約4000頭の牛がいる。それぞれが1日2kg竹飼料に置き換えた場合、年間2,880トンの竹飼料が必要だ。現在同地区には500haの竹林があり年間1haあたり15トン育つので、単純計算でも約1万トンの餌が供給できる。「ここまで数字が見えているのに‥」同氏は自分で動き竹を活用するための活動に尽力する。例えば放置竹林問題を考えるきっかけをつくる「地域資源活動研究会」と「里山竹クラブ」を発足する。よくある地主の代わりに伐採するような一時的なものではなく、若い地主、特に女性に管理の仕方を教え、将来的に自発的に管理してもらうよう促すのが目的だ。「竹林の再生ではなく若返り」
左:浜松市にある管理された竹林
右:放置された竹林が多く見られる。5メートル程度なら女性の手でも倒すことができ1か月で分解し土に還る。このような情報や母になる竹の見分け方を若い地主たちに伝えている。
レストラン「淡竹屋」
敷地内に「淡竹屋」という同氏の奥様とご令嬢、麻里さんが経営するレストランがある。

6年前にレストランをはじめたきっかけは2つあると麻里さんはいう。
「18年前から竹製品の販売は行っていました。竹の粉の試食販売を行うと、”食べていいの?”という質問が多かったので、実際に美味しい食事と一緒に竹の粉を試して体感してもらえる場所を作りたかったんです」
また孟宗ヨーグルトや竹チップを堆肥化したものを使って育てた肉や野菜が手に入り出したのもきっかけだと話す。「孟宗ヨーグルトを使用している牛肉の農家さんは浜松にあるのですが、競りのルールが厳しくて購入が難しいので、イベントの時のみ使用しています。豚は長野県飯田市から取り寄せています」
毎月変わる竹籠御膳、ソーセージは市内にあるマイスターに竹の粉と竹炭を混ぜ込んだものを特注で作ってもらっている。
竹を使って育てた野菜は浜松市内の親戚や自宅圃場も含め5件から仕入れている。ちなみに自宅圃場では竹酢液を農薬代わりに使用し、チップを糞尿と混ぜ堆肥化したもの、孟宗ヨーグルトで施肥をした竹づくしの栽培方法を行っている。1、2年の栄養価が高い竹は動物用の孟宗ヨーグルトへ、4年以上たった古い竹は農業用のヨーグルトになる。
「以前は竹はタダの資源という感覚が強かったんですが、最近ようやく伐採するにもお金がかかる、有効活用した方が良いという考えが浜松に少しずつ浸透してきました。長かったです。」